ありがとう

2002-8月

ずいぶん昔になる。大学二年のときだ。その頃北海道をチャリで旅行していた。大雨が降って死にそうになってようやく名寄についた。北海道はライダーハウスが充実していたので、名寄駅前のライダーハウスに泊まった。まあ仮設テントに冷蔵庫が一台置いてあるくらいのものだったけど、とにかく雨風をしのげるのは助かった。だいたい前の晩なんかもまともに寝てなかった。どこにも泊まるとこがなく、途方に暮れて見知らぬ人の家のガレージに潜り込んで寝たりしていた。とにかくそのテントで二日くらい死んだように寝ていた。

北海道にはヒッピーがうろちょろとしていて、住民票片手にどこに住むかなあ、なんてやつが結構いた。利尻島のユースなんかにはフォークブーム20年遅れて来ましたみたいなのが、スタッフにいたりした。そんななか同じテントにいた人で、当時30歳くらいの男性でやはり自転車で大阪あたりから本州を北上してきた人がいた。色が黒く歯が白い、少年の面影を残した人だった。何人かで近くの食堂に食事に行った。何を話したかはまったく憶えていない。ただ15年以上経った今でも憶えてる光景がある。なんのお礼かは忘れた。ただ語尾の上がったイントネーションが暖かく不思議なほど憶えている。そう、彼はただありがとうと言っただけだけど。