しあわせな男

2016 10月10日

葬儀というのは不思議な場で、悲しいのに喜びもある。

35年ぶりに親戚の俊さんに再会した。最後に会ったのが中学生だったが彼ももう53歳だ。幼い頃皆で遊んだからとても懐かしかった。今はなき祖父の古本屋の光景が目の前に見えるように鮮やかに浮かんでくる。俺や俺たちはこういった思い出や繋がりや一族の一つなんだなと実感してくる。幼い頃からのつながりというのはなにものにも変えがたい。随分飲む男も減った。俊ちゃんはおじいの血で、俺はオヤジののんべえの血が繋がってると笑った。

おじさんの武勇伝も聞いた。おじいと喧嘩して皿鉢が飛び交い殴り合いが始まって俺の親父が止めに入っておじいに醤油をぶっかけられた話。酒飲んで路上で寝てるところを警官に回収された話など武勇伝に花が咲いた。おじさんは最後は教頭で終わったが、組合や党員を上手くまとめたりするカリスマ性が警戒されて校長にはなれなかったと聞いた。酒豪で酒も最後までふかし、背も高い男前だったと盛り上がった。

母が仏壇の前で、お父さんに報告しなさいというので、「オヤジ、またおもろい男が一人減ったぞ」と言った。

もう会えないと思うと悲しくて仕方がなかった。しかし時間が経つと気持ちも落ち着いてこう思った。こんなに悲しいなんて俺はあの人のことが好きだったし、愛されたんだな。俺はしあわせな男だ。

最後はそんなふうに思った。