エジプト

2005 1月14日

21歳のときとんでもない事故に遭遇して2年ほど入退院を繰り返した。両足に穴が開いたり折れたりくだけたり、なんやかんやで大変だった。むしゃくしゃしていたので保険金が出たときはすぐに航空券を買った。行き先はエジプト。ほんとはチベットでもどこでもよかったけど、どこか知らない最果ての地に行きたかった。英語は勉強もせず辞書をザックにつっこんだだけ。わけもわからずシンガポール経由でカイロに向かった。

朝焼けに映る砂漠の大地を見て鳥肌が立った。空港に着いたがまともなチェックもなく税関もヘチマもなかった。ボロボロの中古車がクラクションを鳴らしまくるカイロの街。ロバの馬車がその間をぬって走る。ボロボロの布をまとった人たちがあたりに座っていて、水たばこを勧めてくる。とにかく話しかけてくる人。にらんでいる人。女性はほとんど見かけない。ヘトヘトで探し当てた10ドルのホテルにたどり着いて倒れたこんだ。そしてその日から下痢に苦しむことになった。

何日かしてようやく街になれてきた頃に妙な男に知り合った。弁護士とかいうその男と覆面警官とかいう男、半ば騙されていることも承知で面白そうだから車でギザまで行った。いろいろなことがあったが、被害はウォークマンを盗まれたことと、五千円くらいの食事に二万くらい請求してきたこと。朝もやのギザの街を鞄一つで逃げた。朝方のハイウェイをひたすら歩き、カイロからただ海に向かって列車に飛び乗った。アレクサンドリアで船の便を聞いたらギリシアには行かない、と言われて下痢で体力をなくしたからだでぼんやりと地中海を見ていた。その頃になると日本語をしゃべることもほとんどなく、自分というものがなんなのかもすっかりどうでもよくなっていた。