ファイト

2009 11月13日

今から20年まえだっけ、おまえの部屋で夜の夜中に聞いたんだ。

あのころはいい曲が入ったら聞かせあった。主にR&Bやソウルの洋楽ばかりだった。レニークラビッツの誰にも知られてないとき、ドクタージョン、オーティスレディング、ジャニス。まあいろいろだ。おまえの部屋はやけに広かった。裸にした光が明暗を浮かび上がらせていた。拾ってきた白黒のテレビ。マイヤーズ、ラムばかり一緒に飲んだ。おまえは料理も野郎のくせにうまかった。とにかく馬鹿みたいに話した。なんでもかんでもしゃべりまくった。笑って声を上げて。気がついたら朝がきて昼が来るなんてしょっちゅうだった。なにをあんなに語ったんだろうな。でもおまえとの会話はとんでもなく楽しかった。理屈もへったくれもなく、ただそうだった。

 デパートから盗んできたハンモッグに揺られながら、虚空にむかってタバコのわっかを飛ばすのがおまえのクセだった。今でも覚えてる。あの歌を聞かせてくれたときのことを。

中島みゆきなんておれはきいたこともなかったけれど。あの歌は静かに深く、今耳に残るようになった。暗い海の底から静かに浮かび上がるようなあの曲。人の醜さも美しさも含んだような。田舎から単身何もかも捨てて出てきた、お前のためのような曲だった。コマーシャルなんかで世間に知られたとき、大事なものがおおっぴらにされた気がした。でも、仕方ない。あんなにいい曲なんだからな。どこかの誰かにとってもそうなんだろう。

あれから時間がたった。