叔父と自分

2008 7月13日

親父が家を出ていたときがある。女を作って家を出たのだ。いろいろ事情があったが父方の親戚や、親父の友人の教師連中は全員敵にまわった。幼い頃から知っている親戚との残酷な関係。集団の暴力。そして母と姉と俺の孤独。俺はあのときの怒りと悲しみを今も忘れたことはない。しかし母方の親戚が力を貸してくれた。特に隣に住んでいるおじはそうだった。幼い頃は随分怖いイメージの人だった。祖父と同じ社会主義者の論客で、豪快に酒を飲むし、厳格な昔の男だ。最終的に父の女は保険金詐欺で男をダマすとんでもない玉で、父はなにもかもとられ、身一つで放り出された。もちろんそれは母を含めた我々家族の戦いの結果で、とんでもない労力の果てだった。

すべてが終わっておじさんと話す機会があった。おじさんとおばさんは静かに語り始めた。おじさんの父は妻を残し不倫の末、ある女性と恋に落ちた。おじさんの母は結核で診療所に置き去りにされたままだったのだ。不倫の末子供まで生まれ、おじさんは戦場に出征の日を迎えた。自分が死んだらその義理の弟に長男の権利を譲ると約束して。おじさんの父は俺の義理の祖父で、不倫相手とは俺の実の祖母だ。おじはなにかを俺に伝えたかったんだろう。父が死んだ時俺は葬式の会場でマイクを持ち、今までのことを少し語った。父方の親戚も来ていたし、父の友人たちも来ていた。男らしく堂々と毅然とした態度でいよう、そう思って語った。俺の言葉に母も姉も泣いた。式の後おじさんとおばさんに会った。おばさんは「男を上げたねえ」と言って涙ぐんだ。おじさんと俺はなにも語ることはなく、黙って視線を交わした。