妻の母

2017 1月23日

妻の母についても思い出した。

奥さんはどこかのお嬢さんにしか見えないけど、おかんはものすごく庶民的な人だった。苦労して嫁さんと妹を育てた。働きづめの一生だったらしいが、俺が 会った頃は病気がちであまり目も見えず、妹さんも嫁いで寂しく暮らしていた。感情を我慢できない人で、さびしくて警察に下の人がうるさいとかなんとか言い 訳をして毎日電話をする。下の部屋で火を使っているとかどうとかで消防署も呼び出してボロい市営住宅に10台くらいの消防車を集結させたりと、晩年はやっ かいな人になっていた。俺は嫁さんと一緒に消防署や警察署に謝りに行ったりもした。しかしそれでもなぜか嫌いにはなれなかった。ある意味まっすぐな人で、 似ても似つかない嫁さんとはなにか魂だけは似ている気がしていた。

一人でそのお母さんに会いに行ったことがある。

今度の母の話のように、美空ひばりの曲をカセットに録音してほしいと言っていたからだ。それを届けると「せいさん、歌詞を紙に書いて」とやはり同じことを 言われた。俺は渡された赤いマジックで紙に大きく「川の流れのように」の歌詞を書いて、壁に貼り付けた。「ああうれしい」と喜んでいた。義母は猫が大好き でちゃとらの野良猫にたまちゃんと名付けて飼っていた。そのたまの姿もスケッチして描いてあげて壁に貼ってあげたら喜んでいた。

「コーヒー飲んでいってな」

そう言って差し出されたコーヒーは粉をろ過していない、粉まみれのコーヒーだった。「ああ、おいしい」義母はそう言う。この人はいつもこういう飲み方をしてるんだなと思うと何も言う気になれず、半分だけ飲んで「おいしいですね」と言って笑った。