帰省(山)

2010 2月14日

「千光士いうたら安吉さんところかね」

不動産やの年配の女性はそういった。「はい、盛作の孫です」安吉はひじいさんになる。「わたしも遠い親戚になるぞね」このあたりは狭い。すぐに知り合いにあたる。「山を持ってるんですが、このあたりはどんなもんでしょう」「場所によるきねえ」場所によっては二束三文の場合も多いらしい。親父が売り飛ばしているかもしれないが、場所が特定できない。中学生の間まではおやじとよく行ってた。おもにたけのこを取りにだったが、もともとはじいさんが紙すきの仕事の絡みで買ったものかもしれなかった。立派な木が何本もあったが、おやじの管理がずさんで竹林になりかかっていた。ああなると材木が資産になることは難しいだろう。

どのくらい山を登ったか忘れたが、ある場所からの区間だけを所有していた。そこから頂上までが千光士のものらしい。湧き水に千光士水と称して二人で飲んだ思い出がある。場所は市役所で調べることが可能だとわかった。

「どうやったぞね」「後で見積もりを送ってくるらしいき」「まあ、あんたの代に変わったき自分らあで運営していきなさい」「あんた佳子さんにお野菜を持って帰りなさい」母はそういって近くのスーパーで買ってきた安くて新鮮な野菜をかばんの中にねじ込む。「おもうなるき、あんまり入らんきよ」「あんた、佳子さんのためにも無理して持っていっちゃりなさい!」だいたい帰り際にはこんなやりとりが常だ。

母の子供の頃を描いたクロッキーを本人がずいぶん気に入った。

それを帰り際に額に入れて帰った。