愛と希望の街

2010 2月4日

大島渚の処女作は27歳の「愛と希望の街」だ。主人公は大島と同じ父親のいない貧しい家庭の中学生の少年だ。

母親は靴磨きで妹は少し頭が足りない。少年は靴磨きのついでに街で少女に鳩を売る。ブルジョワの娘の少女は弟と同じ様な年頃なのに貧しいのはかわいそうと言い鳩を買った。しかし少年の家では鳩が逃げて家に戻るという習性を利用して、詐欺まがいに何度も鳩を売っていた。母親は何が悪いというが、少年は気がとがめていた。少女は有名企業の重役である父親に、少年が会社に入れるよう担任の先生を父と兄に紹介する。少年の担任の女教師は喜び、少女の兄ともささやかな愛が芽生えてくる。少年の母は高校に行かせたいと思っているが、少年は家計を助けるためにいいところへ就職したいと思い少女の善意を喜ぶ。

しかし少年は会社に入れなかった。

少女は、家庭が貧しいから採用されなかったんだと、父と兄を非難する。女教師も恋人になった少女の兄を非難する。兄は切羽詰って答えた。実は身元調査で少年が鳩を売って詐欺まがいなことを繰り返していることがわかった、だから自分は守りきれなかったんだ、と。女教師は少年とその母になんで嘘をついていたんだとなじる。しかし恋人の青年には、自分も少年と同じく貧しい世界の人間だ、似たようなことをしないとは言い切れない、あなたはあの貧しい少年を見捨てた、といって訣別する。少年の母は鳩を売って何が悪いと言う。しかし少年はもう一度鳩を売ろうと決断する。少年を探してやってきた少女は、こんなことをまたするなんて人間のすることじゃないわ!と言う。少女は鳩を買い、もう二度と戻らないわよ、と言う。少年は家に帰り鳩の箱をナタで叩き壊す。母は又戻ってくるかもしれないじゃないか!と叫び妹は泣く。もう戻らないよ!少年は叫ぶ。少年は屈辱に耐えられない。昨日まで貧しい一家のつつましいいたわりのシンボルだった鳩が今は、お前は心までが貧しいと決めつけられた屈辱のシンボルだ。俺の心が、俺の心が何で貧しいものか!

一方裏切られた思いで興奮して帰ってきた少女は、街を見下ろせるベランダに立って兄を呼ぶ。猟銃を持ってきてと付け加えて。少女は、いまこの鳩を放すから撃ってくれという。そう。兄は少女に何度も言ってきた。貧しい人たちに同情してもきりがない、と。兄もその足取りは深く重い。しかし、かまえた銃口を見るまなざしにははっきりと決意がある。少女は鳩を空にとばし、兄はそれを猟銃で撃った。鳩は無残に、貧しい家や工場が立ち並ぶ街の空で散った。