愛と欲望

2009 11月21日

「駅路」は失踪した中年男の話だ。

定年した翌日に突然消える。味も素っ気もなく、ただの堅物だと思われていた男には愛人がいた。男は石坂浩二、女は深津絵里、追う刑事は役所広司。中年男の悲哀だけでなく、愛とか欲とかがしみる。理屈でどうにもならない人の感情や欲望。なにも破綻のないありきたりの人間の裏にある闇を清張はよく描く。あたりまえの主婦の裏が「張り込み」少年の心の悪の「天城越え」とか、枚挙に暇がない。この愛人役も深津絵里がよかった。清楚で静かな魅力と意思の強さと、裏腹の弱さをよく表現していた。この手の女性には誰しも弱いものだ。

清張には駅や鉄道が多く出てくるし、よく似合う。いろいろな人の交差点であり、移動に妙な感傷もつきまとう。鉄道の移動が好きか嫌いかで、感傷的な人間かどうかわかる気もする。メキシコの監督のイニャリトゥを思い出した。21グラムなんかよかった。

しかし今、人間的にも熱くて叙情的だけど時代設定が古いドラマが多すぎる。われわれはなにも変わっていない。今の時代の人間で清張のような物語をもっと見たい。

結局ひとは感情と欲望で動く。歴史も大国の欲望によって利害のある国を侵略し、小さい国は大国の圧力による恐怖で近代化、武装化、大国化する。個人個人もそうだ。感情と欲で動く。尺度がそれぞれ違えども。そのことを否定も肯定もせず生きてゆく。そこにリアリティがある。