池上家のはなし

2016 11月1日

亡くなった叔父、池上隆一さんは16歳のとき海軍兵学校に入学した。幹部将校を養成する学校で今の防衛大学に当たる。隆一さんの父は戦時中に共産党のシンパとして活躍し、高知で唯一思想書を販売する書店を営んでいた。おじさんの兄弟は下に二人妹がいて、お母さんは結核で隔離入院されていた。そこへ名古屋の社長の未亡人になった千光士誠の祖母と道ならぬ恋に落ちて、連れ子二人がその本屋にやっかいになる。連れ子は男の子と女の子でその女の子が母の千光士典子になる。

そんな折離婚もしていないのに隆一さんの父隆郎に子供ができる。そして隆一さんのお母さんは空襲で死んだ。あれは自殺だったんじゃないか、とおじさんはポツリと言ったことがある。そこへ赤紙が来た。生まれて来た子供は男の子だった。もう自分は死ぬからと、その子に家を託しておじさんは出征した。

先日30年ぶりに会ったしゅんちゃんは、おじさんの妹の子供だった。おばあちゃんは随分うちらの方に気を使いよったね。そんな話を初めて聞いた。 そんな状況で家に入ったばあちゃんは気を使っただろう。そしてばあちゃんの連れ子も。それが俺の母だ。

高知の宅地の野市町でおじさんの紹介で家を建てたのが43年前だ。それからうちと隣はずっとご近所さんだった。おらんなっても明かりがついてないか気になってねえ。

母はそう言った。