消してゆく

2010 12月24日

若い頃は自己主張ばかりしてたんです。特に芸術とか言う世界はそういったことがいいことだと思っていたし。 生き方もそうだった。年上の言うことなんか聞きたくもなかったんだな。だんだんそれが正しいわけじゃないのがわかってきた。芸術は自分を押し出す行為じゃなくて、自分を消す行為だと気づき始めた。もっと突っ込んで言うと、頭の思い込みをなくしてゆく世界だと。

昔は人に教えるなんて嫌だった。父が教師、校長までなった人だから反発していたのかもしれない。ひょんなことで教えることになって、それがまたヌードデッサンでずいぶん考えが変わった。自分の主張を押し付けても誰も見向きもしない。だからそれぞれの個性を尊重することにした。もちろんモデルの個性も。毎回違うモデルさんが来る。一瞬でその人たちの特徴を見抜いて生徒さんたちに伝える。ものごとの本質を見抜くというのは自分にとって習慣化していたことだし、それを可能にするのは先入観を持たずに相手を見ることだと実感した。相手から受け取ったものを自分を通して送り返す。それはただ単に自分の気持ちをぶつける以上に豊かなものを生み出す。

平行して肖像画を描き出した。千人を目標に描くことにした。実はこの企画はヌードの教室以前に考えていたものだった。なぜか偶然同じ行為を行ってることに気づいた。相手の本質を理解して作品にして送り返す。その中でずいぶん物語として相手のことを考えたけれど、理解というのはもっと感覚的生理的なものだとわかった。個性というのは頭の中にあるものじゃない。あたまを消してからだを通すことでからだの個性が際立つ。

個性とはからだのことだ。