おんちゃん

2008 8月17日

田中の家族とは随分付き合いが長い。小学校3年くらいだから、33年くらいだ。家も当時と変わっていない。オープンな家でいつでも縁側から入れる。鍵もかかっていない。長男と小中学校同級生だが、弟、おんちゃん、おばちゃんとも親戚付き合いのようになっている。俺の家にはないオープンさと団らんがいつも居心地がよく、学校すぐ裏にあるので皆でよく集まった。それから高知を離れても毎年夏と冬にはこのうちにお邪魔する。大晦日なども実家じゃなくここにいたりしたことも多い。おんちゃんは「息子が帰って来た」と言って歓迎してくれる。それが突然兄弟そろって駆け落ちのようになって、いなくなったことがある。おんちゃん、おばちゃんの落ち込みようは見ていて心苦しく、家の火が消えたようで本当に寂しかった。それでも俺もこりもせず一年に二回必ずこの家を訪れた。子供がいなくてもおんちゃんやおばちゃん、おばあちゃんの話を聞いた。親御さんの悲しみや苦しみは俺にもよく分かった。今年こそ元に戻っているだろうと淡い期待で通うこと七年、もう本当に昔に戻らんかもしれん…そんな風に思い始めた直後に、兄弟は子供を二人も三人も抱えて戻って来た。一気ににぎやかになって本当にうれしかった。俺の結婚式も家族丸ごと来てもらった。今は妻も宴に参加するくらいだ。そんな田中家の鉄人のような親父が入院したと聞いて飛んでいった。昔かたぎの男の中の男で、俺も心配した。「おんちゃん、まだ死んだらいかんぜ」そう言って強く手を握って来た。