そしてどう

2008 7月22日

俺は奴がいなくなった間も東京にとどまってただ働いた。市井の生活の中で汚辱にまみれたかった。繊細さもぶち壊したかった。純情なぞうんざりだった。権力者にも隠遁者にもなりたくはなかった。それはあいつの言葉では汚れたと言うのかもしれない。そしてただ黙々と作品を作った。奴はその頃その女性と日本中を何年も旅し、農業や大工をやったり、浮き草のように放浪していたらしい。写真も本当にやめていた。そして彼女と一緒になり、二人の子供を作った。家族との濃密な生活こそ自分の純粋性の象徴だったようだ。しかし7年も経って再会したときには少しこころが痛んでいた。

実の兄とも縁を切った。友人で家族に紹介したのはセイだけだ。そんな風に言った。それからは頻繁に会うことになった。まるで昔に戻った気がして本当にうれしかった。絵本を描くと言ったときもうれしかった。創造する気になったんだと。しかしそれは家族への愛をうたった稚拙で幼稚なものだった。努めて冷静に指摘したが奴は逆上した。「俺はおれのことをわかってくれる人間としかつきあいたくない!」そこに至るまで他にもいろいろなことは受け流して来たが、作品を冷静に観れないということは、俺たちの間で決定的なことだった。終わったと思った。青春は終わった。俺たちの青春は終わった。しかしそれはもう7年前に終わっていたのかもしれない。

しばらくして俺は東京を去った。