ふつうの仕事

2011 7月25日

絵師ですよ、絵師。

そういやギャラリーの片山さんにそう言われた。肖像画を描いて相手の家に永遠に根付く。昔の画家はこうしてたんだろうなあ、と改めて実感する。不思議な気分でもあり、当然のような気もする。僕の個人は絵の中にしかない。筆のタッチであり紙の感触の中にしか。音楽家は過去の名曲を何度もカバーする。歌のみに個人がある。昔は画家もそうだった。当たり前の世界に触れたい。つまりこれは人間にとって最も難しいこと、意識を変える作業を行っている。しかし好きでもなかった絵描きというものにここまでかかわるとはね。好き嫌い関係なく続いているものなんで、家族に近い。家族は近すぎて好き嫌いを言うのは恥ずかしい。からだに寄り添っているものだ。自分にとって絵はそういう存在だ。あんまり好きだと描けないんじゃないかな。大事にしない方がいい。息を吐くのを深く考えないのと同じ。

なんでしょう。建築に似たようなもんかな。個人の家の建築で評判になるものがあって、でも写真でしか見たことがない。しかしその家があるという評判と影響は大きく広がる。ルイスバラガンの建築はメキシコにあってその素晴らしさは写真でしか知らない。しかし僕の心に深く響いている。今やっている「仕事」はそういうもんかもしれない。20世紀も終わったしそろそろ元に戻そうや。人間本来に根ざした世界に。えらいひとはえらい場所でがんばってもらうさ。おれは一介の生活者。ただそれだけ。