ピエロ

2004 12月

なにかの簡単なインタビューで坂本龍一が映画と聞かれて「気狂いピエロ」と答えていた。そのとき幼い記憶がおぼろげに蘇った。真っ青な空をバックにダイナマイトを巻いた男が自爆する映像。顔にはなにか塗りたくった男。

今はない名画座でその映画が上映されていたのを知ったのはしばらくしてだった。田舎の街でレンタルビデオなどまだ普及していないその頃、16歳だった自分はその映画を観ることになった。映画館の入り口でカッコイイポスターと大きく書かれた「気狂いピエロ」のタイトルに圧倒された。

映画はそれまでの映画の概念を壊すような鮮烈なもので、言葉と色彩の断片が絵画のようにちりばめられていた。そしてどこで観たかはわからない自爆する男の映像は記憶とは異なっていた。しかし黄色いダイナマイト、青く塗られた顔、赤いシャツ、真っ青な空と地中海は印象に残った。そしてその頃の日記にはこんなふうに書いた。とにかく主人公の悲しみ、深い悲しみが伝わった。監督がゴダールという男で、この映画がヒロインの女優アンナ.カリーナとゴダールの破局から生まれたという事実を知ったのはずいぶん後になってからだ。