予感

2010 4月19日

土佐の海は、激しい荒波と岩でできている。

自然を守るとか言う。そんな言葉は自然を知らない人間の言葉だ。自然はそんなに甘いもんじゃない。いくらコンクリートで土を埋めても、人がいなくなれば何年かすれば、少しの隙間から木をはやし、草がうっそうと茂る。人間の計れない単位で滅びたり、再生したりを繰り返すだけ。海はきれいだというが、海は怖いものだ。海でも川でもよく人が死んだ。友人は川で死んだ。妻の父は海で死んだ。

自然を守るとは自然が弱いという意味だろう。守るなんてずいぶん傲慢だ。

幼いころ台風になればみんなで海を見に行った。大人たちもそうだった。あの叩きつけるような波の荒々しさを目の当たりにして言葉が出なかった。あそこに飛び込んだら間違いなく死ぬだろう。そう思いながら見つめても、そのときは怖くはなかった。大きなものを見ている。 ただそう思っていた。

ダムが放水した直後の猛り狂う様を見に行ったこともある。台風がやってくる直前の、肌にまとわるあの生暖かい粒子。動物的予感に襲われるあの感触。ずいぶんそんなものから遠くなっていた気がするけれど。

このごろは海のそばに住んで少しずつ変わってきた。