妻のはなし3

2012 3月8日

私はもともとそんなに強くはないけど、こうして人前で言えるようになった。成長したよ。

話によると他の部署の人で応援してくれる人もいるらしい。あそこは崩壊してる。千光士さん応援してるから戦いはこれからやでって言われた。あのチームリーダーの男なんか本当にひどい。うるさいから言うて言うたら、どこか頭がおかしいんですか?とか言う。いっつも逃げてごまかして。嫁さんは怒りがみなぎって仁王立ちになっている。いい顔してるよ佳子、と言った。

黒沢の映画で「わが青春に悔いなし」と言うのがあるのよ。主人公の女性、原節子と夫は戦時中に反戦を訴えて駆け落ち同然で家を出る。ぶちこまれてだんなは死ぬ。だんながやったことを忘れない意味でだんなの実家の農家に身を寄せた原節子は、義理の両親にも村の人にもスパイとか呼ばれて誰も味方になってくれない。泥だらけで鍬を持って笑われても立ち向かって行く姿を俺は今でも思い出すよ。彼女は何度もこんな風につぶやく。

顧みて悔いのない生活。

ごまかして中途半端に生きるより、おまえにも悔いのない生き方をしてほしい。

次の日帰るなり嫁さんは「勝ったよ」と言う。あの一番うるさいの、しばらく休むって。事務所も朝からすごい静かになって、静かな方がやっぱりいいですねとか言うたよ。

そうか、よかったな、と俺は笑った。