馬鹿

2009 6月12日

ときどきNHKのプロフェッショナル観る。印象に残った人が二人いる。

全く農薬使わないリンゴ農家のオヤジと、数百人の外人を引き連れてすり身の巨大加工漁船を率いる日本人のおっさんだ。

リンゴのオヤジは何年も無農薬のリンゴ開発に失敗続きだった。家族もいるのに赤字続き。周囲からは蔑まれ、金がないからキャバレーの呼び込みまでしても続けた。それでも駄目だった。だから彼は責任を取って死のうと山の中に入っていった。そこで見た、どんぐりの木。それを見てなにかを得た。自然の実はなにも手入れしていないのに当たり前に実を咲かせる、ということに。そこから変わっていった。なるべくあるがままの状態に手入れして、リンゴの果実を作ることに。オヤジは歯の抜けた姿で秘訣をこう言った。

「馬鹿になることです」

漁船のおっさんは一年の大半を船の上で過ごす。荒くれ者の外人相手に、おだやかでしっかりとした短い言葉で指示を出す。すり身の精度にも気を配る。ときには語らずに出来の悪いものを投げ返すし、出来のいいものも無言で投げ返す。向こうが自信があればまた投げ返して来る。まるで剣豪の勝負だ。この人片腕がない。仕事中に機械に腕を巻き込まれたらしい。それでも仕事を続けたのは、負けたくないの一心だったという。腕をなくして船から降ろされても懸命に嘆願したらしい。もう一度乗せてくれと。そして現役と同じ動きは出来ないので、人を動かすことに神経を集中したらしい。

「一番嫌なことは同情されることです」

おっさんはそう言った。