ババア

2015 1月27日

美術予備校、立川美術学院は東京の美大のみを目指すために作られた私立美大に特化した学校だった。

朝8時から英語の授業、9時からデッサンや平面構成、18時から補習、クラスのよっては帰ってから課題もあるスパルタ学校だった。全国から腕利きの猛者が集まってとにかく驚きの連続だった。最初はうまくいかなくて悩んだけど、その下宿で苦楽を共にする友人に出会えたことが人生を変えた。皆真剣に調べてここに来た地方出身者が多く、俺みたいな間抜けな理由はまれだった。それでも人生であそこまで徹底的に集中した時期もなく、一日も学校を休んだことはなかった。

そんなとこだったらみんな受かるんじゃない?なんて聞かれることもあったけど、途中でついていけなくてかなりの連中が脱落した。一年後のこと考えたら不安はなかった?とも言われたが、無我夢中でそれどころじゃなかった。でも不安で隣の部屋の佐々木とベランダで昼間そんな話をしてた記憶がある。帰ったら一緒に皆と銭湯に行って作品の激論を繰り返し、週末は飲んで大暴れしてた日々だった。今思えばこっちが悪いんだけど、隣の主婦があまりの爆音にノイローゼ気味でしょっちゅう乾電池を投げて来てた。俺たちはババアと呼んで嫌っていた。でもある晴れた日、二人でベランダで将来の不安を口にしてたら、がんばれよ!と声が聞こえた。驚いたけど佐々木は、

「ありがとな、ババア!」と叫んだ。