溝田さん3

2011 9月12日

結局廃人のようになった理由は最後までわからないままだった。 聞くに聞けない状態だったからだ。それからしばらくして女人禁制の寺に半年入って修行していたとか北海道で子供を産んだとか、なんだかわからないまま疎遠になった。そして俺はゴリラ便にも出入りしなくなった。

最近フェイスブックで彼の消息が分かった。実家の徳島で漁師をやっているらしい。妻子もいるらしい。そんな話を聞き高知に帰る途中に立ち寄った。駅で出会った溝田さんはあのままだった。ひげを生やしてバンダナを巻いて塗装もはげたぼろぼろの車を駆って、いきなり山の上に連れて行かれた。昔のろしをあげていたその場所は見晴らしも最高で、溝田さんはいきなりほら貝をぱおー!と吹き始めた。そして別の山の中腹に連れられ、男根のような岩が三メートルほど突き出たご神体にひょいひょいと駆け上がり俺も有無を言わさず必死で登った。ほら貝ぱおーだ。それからまた別の山に連れられ、ひょいひょいと駆け上がる。ひーひー言いながら見晴らしのいい場所に登ったと思ったら、崖を猿のように下り始めた。ひー!こんなとこで死ぬわけにもいかない。そう思いながら必死で岩や枝をつかみながらようやく崖を下った。そのまま海まで行って絶景を眺める。ビールを飲んでぶっ倒れた。そこは最高の景観でなんだかわからないけど最高の海を楽しんだ。なんでも山に奥さんの関係の家があってそこに泊まれるという。溝田さんは酒に酔って佳境に入ると服を脱いでふんどし一丁になった。ふんどし学会なるものに入っていて、youtubeで映像を見せてもらう。冬の大阪の堂島の川のど真ん中にふんどし一丁で飛び込む映像見せられたとき、言葉も出なかった。

溝田さん相変わらずだ。思わずそうつぶやいたけど、小さい娘さんから電話があった。ビールは三杯までにしてね。娘二人の写真をうれしそうに見せる溝田さん。しっかりして優しそうな奥さんからの電話。そんな声を聞いていて素敵な家族を持ってるんだなあと感じた。それはあのころとは大きな違いだった。溝田さんさいこうです。