青春の証明

2010 10月12日

街には二階建て以上の高い建物はなかった。

ひさしぶりに友人と神戸に立ち寄ってそんな風に思った。血迷ったことに坂の上の高層マンションにも一度住んだ。育った高知の田舎街には幼いころ高い建物はなかった。結局今だって二階に戻った。

高層ホテルのラウンジから街を見下ろした。夜は街の明かりがひどく落ち着いて見える。この街を離れて一年が経った。かえって愛着もわいたし、久しぶりだと新鮮にも思える。 いろんな街の夜景を眺めたけど神戸の夜景は最高だった。街には臭いがある。高い場所に行くと一番にそんな嗅覚から遠くなるようだ。それが奇妙な浮遊感と恍惚を生む気がしてしょうがない。友人はスコッチを飲んだ。俺はギネスを頼んだ。友人が頼んだドライフルーツとの相性は微妙だ。

「人間の証明」を読み終えて、未だに読んでいなかった「青春の証明」を読み始めた。自身の罪を償うために刑事に転職した男の話らしい。すべてを懸けて意地を貫き通した男を描いた小説とのことだ。まるで、誰かみたいじゃないか。そんなことを自嘲気味に思う。

ふと別れた友のことを思い出す。いや、その言い方は違うな。あいつのことは忘れたことがない。今は連絡先もどこかに行ってしまった。なあ、今おまえはどこでどうしてるんだ。

佐々木中行。

おまえのことは一度も忘れたことがない。