観た

2009 6月4日

寺山修司の作品を大阪のミニシアターで観た。映画館で観るのははじめての「書を捨てよ街に出よう」だ。ビデオでは腐るほど観た。この映画は映画館で観ないと意味がない。いきなり主人公が観客にしゃべりかけて来るからだ。「そんな暗闇の中に座ってなにやってんだよ」と言う。「ほら隣の人の膝に手を伸ばしてみろよ」映画館を瞬時に劇場化してしまう手口は流石だ。終盤「灯りをつけてください」と主人公が言うと映画の中と同時に映画館内でも灯りがともされる。これは感動的だった。寺山というと頭の人でもあるが、同時に土着の人、血族の人、風俗の人でもあった。この強い外部が頭のゲームで終わらせない。映画は当時の新宿、ヒッピームーブメント華やかなりし頃の風俗と、いつの時代でも変わらない青年の焦燥と飢えを中心に展開する。といっても寺山。現実と虚構の飛躍、展開の予想がつかない魅力とエネルギーは圧倒的だ。しかし気になったのは当時と違う青年の事情だ。青年は古い家族制度から逃れようともがくし、少し年上の学生たちは既存の社会に向けて新しい価値観を作ろうとする自由さで溢れている。今も青年の孤独は変わらないけど、家族制度は崩壊して憧れる先輩たちはどこにもいない。

寺山修司に教えてもらったことはいっぱいあったけど、一番は既存の価値観を疑え!ということだった。映画と言う様式を疑え、国家という枠を疑え、自分と言う存在も疑え!どんな世界も簡単に様式化してしまう。当たり前に映画を観させない、文字も読ませない、寺山修司という人間も理解させない。おかげさんで自分もアートと言う枠も絵画と言う枠も疑っている。自分と言う枠も疑う。

俺もガソリンで街に目がいった。寺山がいったとおり。「書を捨てよ街に出よう!」