なにも願わない手を合わせる

2009 3月5日

藤原新也で今一番好きな本が「なにも願わない手を合わせる」。

アジアを漂流した「全東洋街道」から「東京漂流」を経て、日本の片隅にたどり着いた。ここでは主に四国巡礼の旅を中心に書き、撮っている。随分前に読んだので、細かい物語は浄化されて写真と物語の印象だけがぽっかりと残った。手の届く距離を撮ったその世界は、素朴で詩的で毒も何もかもが洗い流されている。

ぽっかりと浮かんだ雲。階段の前でお辞儀をする老婆。波に洗い流される赤い靴。誰もいない田舎の電車の中。腕に止まった小さな蝶。緑色の苔に覆われた朴訥な顔のお地蔵さん。このお地蔵さんの写真が一番好きだ。

タイトルは藤原が出会ったある少女から来ている。幼い少女が無心に手を合わせている姿が彼の胸を打った。

何も願わない。

そしてただ無心に手を合わせる。