少年

2008 12月20日

「少年」は子供を使って当たり屋を行っていた家族の物語だ。実際にあった話だ。そして映画も現実通りに高知!(しかも香美郡)から出発し、北海道まで向かう。

登場人物は戦争の古傷を抱えた父親。二歳の連れ子を抱えた再婚相手の女。そして車に当たって示談金をせしめる役の十歳の少年。彼は父親の実子だ。重い内容だが暗くはならないし、感傷的でもない。もっと冷徹に見据えている。この主人公の少年は実際に孤児だ。劇団の子供たちは腐ったガキばかリだったらしく、50の養護施設から見つけたのが阿部哲生だった。撮影期間は六か月、全行程は七千四百キロ。一日の宿泊費は一人朝夕二食千円以下だったらしい。

作品の中で監督の視点は常に少年の内面には入らない。少年はひどい目に遭っているが誇りは失っていないし、悲観もしないし親たちを攻めない。作者が内面に入って観客の同情を誘うのは簡単だったろうが突き放している。少年は親や世間ばかりではなく作者からも突き放されている。彼は誰よりも孤独だ。彼の孤独は雪の北海道で結実する。零下二十度の吹雪が叩き付ける雪の中、哲生とチビの映像が心に染みる。ああ、これが観たかったんだな俺は。二十年もこれを観たかったんだ。

そんな風に思うと少しだけ涙が滲んだ。