あいつの電話

2008 11月20日

コスギは東京でヒッピーがたむろするゴリラ便で知り合った男だ。一回か二回しか一緒に仕事をしなかったのに妙にウマがあった。ぼくとつで嘘なんか1ミクロンもつけない正直な男。骨太で毛深く野性そのものって言う体格で、余計な言葉をしゃべるより雰囲気でしゃべりかける男。味のある笑顔が素敵だ。一度結婚していた女と駆け落ちしたことがある。あのときは本当に情熱的だった。でもそれからつきものが落ちたように恋愛に縁がなくなった。

あいつとはいつも女と別れたときに話たくなった。ほとんどが女がらみの話題だった。仕事もアートも社会の話もない。恋愛の話だけ。何年に一度しか会わないのにそれだけで二十年近く続いてきた。パチプロやゴト師とかバーテンとかやってたけど、最近は壁の補修の仕事で自営して人も使ってる。結婚式も来た。ゆうせいがすごく気に入ってて笑った。ちょくちょくロッテの応援のために関西に来た。もう恋愛なんかしないのかな、と思ってたらいきなり出来ちゃった婚をした。昔からあいつのことを待っていた女性と。うれしそうに照れていたが、昨日かかってきた電話はちょっと違った。ストレスで調子を崩してるらしい。ストレス?ええ?おまえが?と思ったけど、産気づいた嫁さんと一つ屋根の下で暮らすのは、あの野生児には大変なことのようだ。

「せんこうじさん、また電話していいすか」

おう、いつでもかけてこいよ。俺はそう言った。

電話を切ったあと、あいつがそんな悩みを言うようになったんだと思った。