方外の人

2008 7月2日

三千世界の烏(からす)を殺し、

ぬしと朝寝がしてみたい

この俗曲の歌詞は高杉晋作が作ったものだ。彼は詩人でもあったので、そこからいくらか内面が読み取れる。若干25歳で長州首相代行を任命され、イギリスを相手に真っ向勝負で交渉する晋作も、わずか2年前まで自分をつかみそねていたようだ。「愚か、狂か、それとも痴か」などと自嘲気味な手紙が残っている。俺がそんな晋作に惹かれるのはやはりこの自嘲気味なリアリストの視点と、ロマンチシズムの同居にある。革命こそ彼の天分の結晶だろう。最高に酔える酒が革命だったのだ。

26歳で功山寺のクーデターを成功させ藩の重要人物になるもテロリストから逃れるため亡命。大阪から四国への逃避行が始まる。愛人と三味線、若干の悲哀と胸いっぱいのロマンを携えて。そして残したのが旅先で読んだ歌だ。

ままよと旅に出たが死んでも墓場だけは不自由しない。旅枕は固く、夢は冷ややかで、谷間の月がわが寝顔を照らしている。月で思い出すのは功山寺の雪景。よあけの雪を蹴って進撃したのは、あれは夢だったか。 生とは何か、それは死にほかならぬ、死とは何か、ただちに生であろう。どうせこの身は世間の外の人。

ときどきあほうらしさがこみあげてきて、くだらない歌なんぞ唄うが、これでもかつては防長国の長官であった。しかし今は投げ捨てて、破衣破笠、方外の人。