帰ってきた男

2005 1月14日

友達に突然失踪する奴がやたら多いが、この男もまた変わっている。家族とは小学二年のころから知っているのでもう二十年以上の付き合い。郷里を離れても季節ごとに遊びに行っていた。兄と弟の兄弟と仲がいいが二人とも一度に子連れのバツイチの年上と結婚するといい、両親が勘当したようになって二人とも同時にいなくなった。兄貴は検察庁とかで働いている役人で家を高知市内に借りたが、弟は仕事も車も何もかもほっぽり出して書き置きだけ置いて駆け落ちした。 それから七年。あの楽しくにぎやかだった家はひっそりと静まり返って、遊びに行ってもなにかもぬけの殻だった。それでも自分も凝りもせず、七年も律儀にまいどまいど訪ねていったのもおかしな話だった。そして訪ねて行ってはおばあちゃんやお母さんの話をケンピをボリボリ食べながらぼんやりと聞いていた。帰るたびに今年はいるだろうと淡い期待を抱きながら訪ねるのだけど、そのうち「もうこのままかも」とあきらめかけていた。それでその年もあきらめたまま電話をかけたら、なんとその弟本人が出た!なんとも悪びれず「帰ってきた!」という。後ろではやたらにぎやかな様子だ。早速家に向かったら兄貴の嫁と連れの男の子が二人、弟の嫁と連れの男の子が一人と実の子、女の子二人つれて大騒ぎしていた。わ、なんじゃこれゃ!となって事情を聞くと高松で無一文一から初め、籍も入れて波瀾万丈な生活をしてきたらしい。最後にまったく金がなくなって戻ってきた。

このまえの正月に自分のよめを連れて遊びに行った。今は仕事も高知で見つけて実家から歩いて一分もかからない場所に住んでいる。 結婚十年目で指輪を買ってあげたという。あの嫁さんで良かったと言う。昔死ぬほど女遊びをしていた男が駆け落ちまでして一緒になった相手だ。そして僕たちは微笑んだ。