不思議な話

2009 12月5日

金田一耕助。懐かしい名前だ。原作者の横溝正史が神戸の出身だと改めて知った。

たかだか11歳くらいのこどもだった自分が、おどろおどろしい彼の本を買った。本屋の親父が驚いてたのを今でも覚えている。横溝の世界は大人の禁断の世界だった。色と欲があり、廃頽と豪奢な可憐さもあった。そんなどろどろした世界に金田一は無垢なまっさらな人間としてたたずんでいた。謙虚で虚飾を何も持たず、ただ知性と誠実という武器一つであの恐ろしい世界に対峙していた。横溝の世界は都会の文学だと改めて思う。陰惨な田舎の一族でも視線は都市生活者のそれだ。

実は自分の一族の世界にも似た香りを感じていた。複雑な歴史や個人の情によって一遍の物語になるかのような一族。色と欲があり、廃頽と豪奢な可憐さ、というのはまさにそのとおりだ。孫として少し離れた距離に位置していたのも、金田一に似ている。

東京に行ったときは、そういうものから本当に離れたかった。

今関西という場所に来て、もう一度自分の一族を見つめなおすというのはどういうことだろう。自分が集団や群集とかそんなものを描きだすなんて。