人の闇

2009 11月21日

そんなわけで久しぶりに清張の「ミステリーの系譜」を読んだ。これを読んだのは八つ墓村のモデルになった津山事件が書いてあるからだ。一人の人間が一時間ばかりの間に三十人以上殺した戦慄する事件だ。あらためて読むと気がつくことがあった。

両親を結核で亡くし、祖母と姉に大事に育てられた男が犯人の都井だった。よくある話だが、若いころは頭脳明晰で級長にも選ばれる人望もあった。従順で朴訥で沈着、と教師は評価している。気になる点は怒られると非常に感じやすかったところだ。家庭環境から、叱責に慣れていないことが伺える。教師や警官になりたかったらしい。時代は日中戦争の頃だ。兵隊には不合格だった。持病の肺結核が原因らしい。しかし意外にもこれはそれほどの病気ではなかった。むしろ異常に気にしすぎて自暴自棄になっていたふしがある。狭い村のおんなどもと複数関係があった。これも一人の女と強い関係があれば、このような結果にはなっていないはずだ。姉も嫁いで孤独に拍車がかかった。祖母は甘やかすので意味を持たない。適当に財産もあったのでぶらぶらとできる。強い自尊心。他人が認めてくれないことからの被害妄想。そのことから発生する権力志向。「阿部定よりでかいことをやっちゃる!」とうそぶいていたらしい。

ここまで書くとみなさんおわかりでしょう。今もどこかで起きている殺人者と思考回路や状況がまったく変わりがないことに。土浦とか秋葉原の事件がすぐに浮かんだ。しかも彼の明晰な頭脳は殺人計画の実行まで、緻密に組み立てられている。驚くほど冷静沈着で、ある意味みごとな計画性に驚く。彼の身内に精神障害者はいなかった。そういう視点で読むと、人間の闇なんて見えてこないだろう。

ここには普遍的に人が陥るなにかがある。