人間の証明

2016 4月26日

このエッセイでは二回目になる。

母の作品を描きあげて、なにか映画を観たいと思った。探してたら1978年の「人間の証明」のドラマ版に目が止まった。再発しているのに驚いた。あの頃は12歳くらいでテレビ版のほうはおぼろげな記憶しかない。棟居が林隆三だったのも忘れていた。俳優も豪華で、高峰三枝子、多岐川裕美、岸本加世子、篠ひろ子、戸浦六宏、岸部シロー、橋爪功、佐藤慶 などなど。脚本は早坂暁で丁寧に描いていた。

林隆三のモノローグと岸本加世子のモノローグで進んでゆく。進駐軍の米兵と日本人女性の間に産まれたGIベビーは少なくとも2、3万人は存在するだろうと言われていた。もちろんレイプで望まれない出産をする子どもも多く、横浜にある根岸外国人墓地に800-900体ものGIベビーが埋葬されているそうだ。

母親から捨てられた主人公の林隆三と、GIベビーを捨てた高峰三枝子。物語はその二人を軸に重厚で複雑に絡んでゆく。映画より主人公の林隆三の思いが静かにしみ込んでゆくし、 高峰三枝子の娘役の岸本加世子の目線が映画にはないものだった。やはりこの1978年のドラマが一番深く描いていると思う。

ただ高峰三枝子の告白では泣かなかった。泣けたのは自分を捨てた母と林が対面したときだ。毒のような化粧をしてやはり米兵相手に水商売を営んでいる母は、暴れて出て行こうとする息子に謝罪の言葉をかけるわけでもなく、その化粧をすべて落として醜い年老いた素顔をさらした。 もう二度と会うこともないから本当の姿を見てほしいといって。

母を描いた後に、この母と子のドラマをみることになったのは偶然ではないだろう。