軍人

2012 6月4日

最近キューブリックの映画を久しぶりに借りている。

作り込むことに重点がいっているからだろうか。若い頃何度も観たが今観るとまた違う。映像の魔術みたいに過剰に思っていたが、撮影はオーソドックスで人間の動きを阻害しない流麗なもの。カット割りを多用しない。ロケが必要な映画以外は自宅の近郊にセットを建てただけあって、ポイントは人間に絞り込まれている。スピルバーグが早撮りなのと反対に何度もテイクを繰り返したのは、人間に焦点が当たっているからだ。たけしが彼の映画を好きなのは舞台のようなライブの緊張感があるからだ。スピルバーグは映像が主体でキューブリックは人間が主体なんだろう。一見するとヒューマニズムの作風のスピルバーグだが、主役は視覚的興奮で人間は逃げたりするだけ。キューブリックのほうが人間が主体だ。普遍性や奥の深さはそこに鍵があるんだろう。壊れゆく人間、逸脱する人の様に異常な関心がある。そこに真実があるかと言わんばかりに。それにこの人は優れた軍人、司令官の資質を供えている。緻密な計算、大胆な作戦、情報収集の量と精度、人間の動かし方、最新の機器(武器)の使い方、他人の能力を最大限に使いきる能力。生涯ナポレオンに多大な関心があったらしいが、酷似したものを自覚していただろう。それにしてもこの人、とにかく四六時中人と電話したり製作したり、他人との関わりが強い。製作の裏側は芸術家の孤独とは無縁だ。自分の限界と他人の能力に自覚的だったんだろう。過酷な現場を判断決断してゆく。その姿は司令官の姿だ。